蔵書回廊

遅読家による感想ブログ。

『異端の祝祭』感想

一言で言うならば

 

カルト民俗学ホラー、のち異能力バトル

 

 

全体の感想を書く前に、記憶の整理も兼ねて登場人物についての感想から。

 

【登場人物について】

・島本笑美

序盤の主人公。主に彼女を通してヤンとモリヤ施設の異常性を知ることになる。

能力は異性への魅了かな?

青山から「かなりの美人」と評される、水商売で誰一人笑美に手を出さない、不良であるはずの山池先輩から目をかけてもらえる…等

(兄に関しては兄側の素養の問題だろう)

彼女は依存するタイプだが、その中でも男に染まるタイプだろう。

兄を慕っていた頃は兄が世話をしてくれていると信じていたし、ヤンに心酔したときにはヤンこそが救世主と信じて疑わなかった。男の目的を自分の目的にしてしまうのもそうだろう。

(そして依存先が入れ替わったからか兄の異常さを自覚するのだった)

 

・島本陽太

彼視点のモリヤ施設潜入はかなり面白かった。笑美とは別の視点、一般人視点からの施設の異常さが伝わってきたので。もっと見たかったのが正直なところ。

本性については言うに及ばず。

笑美視点でたまに聞こえていた冷たい声も、幼少期に刷り込まれた陽太の囁きなんだろうなぁ…。

猫を被るのが上手そうなので、モリヤ施設潜入も都合の悪いところは変えて話してた可能性もある(特に岡田への扱いとか)

正直「あまてなたるべし」された方が良かった類の人種(小声)

 

・佐々木るみ

本作の主人公兼ヒロイン。

街中の変人と思ったら異常者(褒め言葉)だった。

青山のお爺さんを巻き込んだ事件とか、物部との出会いとか、「母」については別の小説で語られるのかな…?

余談だが、終盤の展開がTwitterの感想で「領域展開」とか言われてて笑った。

 

・青山幸喜

もう一人の主人公兼狂言回し。作中貴重な常識人。

本人は特殊能力を持たない一般人だが、それ故にるみや物部に気に入られているフシがある。

本人は無力感を嘆いているが、ヤンを単身退けたのは凄いよ。

 

・石神

かませにされた霊能者のおじさん。

るみが嫌う理由の「善意のみで動くから」は何となく分かる気がする。

石神が笑美に渡したと思われる”お守り”も、猛烈な吐き気がこみ上げるアレか、兄の罵声が聞こえるアレのどちらかだと思う。

そしてどちらも笑美を不快にさせていて、石神はそれを”良かれと思って”やっているという質の悪さ。

宗教にハマった人特有の善意とも言えるかな。中盤のヤンの”教育”とある意味で同じ。

 

・物部

土佐弁だー!(以蔵さんで履修した)

常識人その2。彼もたぶん石神に嫌悪感を示すタイプだと思う。

こっちのルールを相手に押し付けるという割とチートな能力だが、彼が四肢を失った話もいずれ出てくるのだろうか。

 

・ヤン

いわゆるラスボス。

個人的には彼のような警戒心を持てない敵だとか、眼窩女のような化け物を神性の存在として扱っているのとかすごい好き。

特にクリスマスの由来を語る独白のシーンは異常な風習を”常識”として、カルト扱いする友人を”洗脳された存在”として素で思っているのがいい。

(康平や慶次のあの後を考えたら凄く憂鬱だが。特に洗脳されて家に帰された場合、宗教系の家系である彼らの家族の心情を考えると…)

カルト教団が本物の力と信仰心を手に入れたらどうなるか」のいい例だと思う。

 

【物語の感想】

ねっとりとした民俗学ホラーのキャッチコピーは伊達じゃないと思った。

諏訪神社ミシャグジ信仰の下りは民俗学ホラー、後半の聖書発覚のあとは異能力バトルと展開が変わったが、これはこれで面白かった。

序盤は割とローペースだったが、陽太のカルト施設潜入辺りから引き込まれていってあっという間に読了。

蘆花公園さんの作品をもっと読みたいと思わせてくれる一冊でした。